1.『SCM最前線』 連載開始に当たって

今やSCMは完全に日本の製造業に定着しました。 SCMという言葉を知らない製造業関係者は、もはやいないと言っても過言ではないでしょう。 製造業にはSCMを支援する仕組みが、何らかの形で導入されているはずです。

しかし、各社のSCMの実現レベルには、大きな格差が生じています。 

SCMの最先端テーマ、S&OPSales & Operation Planning)をすでに実現し、すでにそのメリットを享受しているSCMの先頭を走る企業が生まれている一方で、SCMの基本とも言える需要データの共有化がまだできていない企業、部門の壁に阻まれブルウィップ効果を克服できずにいる企業など、様々なSCM実現レベルの企業が存在する事も事実です。

製造業の企業力は、製品開発力とSCM運営力の両輪で決まります。

競合他社を寄せ付けない斬新な新製品を市場に投入続けられる強い製品開発力を維持し続けることは至難の業と言わざるを得ません。 そして、それを前提として経営を行う事は、安定性に欠ける幸運頼みの経営と言わざるを得ません。 製品開発力にたとえ陰りが出ても、そこそこの製品であれば効率的なSCM運営によって利益を確保できる、そのような強靱な企業の体力を確保するSCMの強化こそが最大の経営課題であると言っても過言ではありません。

しかし、SCMのレベルアップは、一朝一夕ではできません。 長い時間が掛かります。 資金を大量に投入しても、なかなかこの時間を買うことはできません。

私は、永年S&OPなどSCMの最先端を走るお客様をご支援して参りました。 当企画では、このような最先端を走るお客様の事例に基づいて、先進的SCMの構築のヒントをお伝えできればと考えております。

今回の企画では、最先端事例に基づいた単なるツール論ではない、

SCMの必要性・背景、業務の基本的考え方、組織、段階的導入の手順

などについて、順次掲載して行く予定です。

さらに、当企画では、S&OPをすでに確立されたお客様においても、なお残された課題である

 

 SCMKPIとスコアカード

についても触れる予定です。

これまで、長い時間をかけてSCMの個別手法については、様々な議論が行われてきました。 しかし、本質的にSCMモデルの優劣を定量的に評価できる指標は、提案されていません。

当連載では、最後に、これを解決するための 『面積原価管理』 についても言及していきます。

2.各企業のSCM格差は歴然、さらに格差拡大へ!

仕事柄、各企業のSCMの責任者にお会いして、各社のSCMの課題をお伺いする機会が多いのですが、最近お客様の課題認識のある傾向に気付きました。 それは、

  • 自社のSCMは決してうまくいっていない
  •   経営の、特に事業目標達成の役に立っていない
  • しかし、何が問題なのか?どうすれば良いか?絞り込めない

などの共通した漠然たる問題認識です。 問題を感じつつも、どうすれば良いか暗中模索というのが、SCMに対する一般的な現状認識のようです。

ただし、各社が一様にこのような状況にある訳ではありません。

まだごく一部ですが、SCMの最先端テーマであるS&OP(Sales & Operation Planning)に取り組み、すでにそのメリットを享受されているお客様が存在することもまた事実です。 さらに、このような最先端のお客様では、次々と新しいテーマを設定し、取り組みを着々と進められています。

このような意味で、製造業各社のSCMは、ますます格差が拡大しているというのが実感です。

 

これまで、SCMの達成レベルは、組織的・地域的広がりの進度を中心に語られてきました。

しかし、このような組織的・地域的広がりでは、SCMの達成度が語れなくなっています。 広がりよりも、実現の質が問題です。

下図は、SCM実現レベルを示したものです。

SCMの最先端S&OPに至るためには、下から一段ずつステップを進める必要があり、下のステップを省略して先のステップに進むことはできません。

 

まず、最初にステップは、「需要データの共有化・見える化」です。

このステップは、SCMを実現するための必須の前提であると考えられますが、まだ多くの企業で 「需要データの共有・見える化」ができていません。

このステップはSCMの豊かな果実を得るための先行投資であり、はっきりした効果が見えない中、販売側に大きな負担を強いるだけに、このステップでつまずいてしまう会社も多いのが現実です。

次のステップは、「実需と供給のリンク(ブルウィップ効果の克服)」です。

ブルウィップ効果は、需要のデータが供給側へと各部門を伝わる間に、部門間の不信のためにその予測数量の鯖読みが行われ、その予測数量がムチのように大きく変動する現象です。 最終的に供給側に伝わる数量は、実需と大きく乖離することになるので、過剰在庫や販売機会損失の重大な原因となります。

このように発生のメカニズムははっきりしているのですが、克服のためには販売と生産の部門を超えた実需を正確に受け渡す業務の仕組みが出来上がる事が必須です。 しかし、現実には部門間の利害対立のため、この様な仕組みを作り上げることは困難なため、いわゆる「グローバルSCMセンター」の様な組織を新たに作り、このにSCMの責任と権限を集中する事で解決を図ることがよく行われています。

しかし、この様な変革には組織間の責任と権限の大きな変更が必要となるため、実現できている会社は決して多数ではありません。

 次のステップは、「数量管理と財務管理の連携(S&OP)」です。

S&OPはSales & Operation Planning の略であり、これまで「数量」中心の世界であったSCMに「カネ」の視点を持ち込むことで、事業計画の達成をより確実にしようとするものです。 この取り組みの背景には、SCMが経営の本来の目的である事業計画の達成にあまり役だっていないとの反省が有ります。

SCMオペレーションの結果が事業計画の達成に直接リンクするので、「数量」ベースのSCMに対してさらに高い精度が求められます。 その上で、「数量」と「カネ」との連携を取り、事業計画との差異を常時確認しながら、その達成に一歩でも近づける着地点を探すオペレーションを日々実施することになるのです。

必然的に、その実現の難易度はさらに上がり、日本の製造業でS&OPを実現していると言える会社は、まだ一握りの企業に限定されています。

S&OPの先にあるSCMの最終形は、「機会損失防止と在庫削減の両立・最適化」です。

従来においても、一般のSCMプロジェクトでは上記をプロジェクト目的として加えられてきました。 したがって、上記を最終目的とする事には、読者の皆様には違和感が有るかも知れません。 しかし、単にスローガンとして掲げるのであればともかく、その目的が達成されたかどうかを判定する基準自体がは存在しません。 その意味で、上記を達成できたと言える企業は、まだ存在しないと言えるのです。

S&OPを実現している最先端を走る企業でも、SCMKPIやその一連の体系であるスコアカードの設定を次の課題として取り上げています。

 S&OPの先の話はともかく、なぜこのようなSCMの格差が生まれるのでしょうか?

そもそも、高度なSCMを実現するための前提、つまりその概念的な進化とITツールとしての成熟は十分だと言える状況にあるのでしょうか?

次節では、このようなSCM実現の道具の成熟度についてまず触れてみたいと思います。

 

3.SCM実践の道具は充実、しかし・・・

企業がSCMに取り組もうとする際、その実現の道具には、「SCMの概念」 と 「ITツール」が有ります。

SCMの概念が提唱されてから、すでに30年以上の時間が経過しようとしてしています。 1980年代米国で始まったQR、ECRの取り組み以降、SCMの概念は進化・拡張され、世界中で共有化されるようになりました。

その後、SCMに関する多くのテーマが発表され効果を上げた事例も大量に発表されています。 現在の最先端の取り組みであるS&OP1980年代後半、その基本的概念のフレームワークは、すでに完成しています。

しかし、現実にはそれが実現できた企業はごく少数であることは前節で述べたとおりです。

また、ITツールも目覚ましい発展を遂げています。

従来では各企業が一から作り上げてきた基幹情報システムは、いまやERPで普通に実現することが可能になりました。 また、グローバルな情報の共有のためのコミュニケーション基盤であるインターネットも完全に定着し、無くてはならない社会インフラとしての地位を確立しました。 SCMの司令塔とも言うべきSCPSaplly Chain Planning)の仕組みもSCM全体の整合性のある計画を作り出せるようになっています。

これらのソフトウエアの機能面の進化は、IT処理能力の飛躍的な向上に支えられています。 以前では、その処理能力やデータ通信能力の限界のため断念していた処理が、ほとんど手の届くところにきています。 今や処理能力の限界は、SCMの遅れの言い訳にはできなくなっています。

それでは、SCMの概念的枠組みやITツールの成熟にもかかわらず、SCMの取り組みが進まないのはなぜでしょうか?

 

4.SCMが進まない本当の理由

 

SCMのステップを進めて行こうとするときに、各ステップの前のには立ちはだかる高い壁があります。

 最初の壁は、「需要データ共有化・見える化の壁」です。  

需要データの統一を図ろうとしても、これまで永年使われ続けてきた各事業でのバラバラのコード体系、システムのため、これらを一元化することは極めて困難です。 また、たとえ仕組みが出来上がったとしても、販売部門には大きな負担となり、強い強制力でルール化するか、納期回答などの見返りで販売現場への動機付けがうまくいかなければ、いずれ使われないシステムとなってしまう可能性大です。

 次の壁は、「実需と供給のリンク、ブルウィップ克服の壁」です。

需要と供給データの一気通貫ということは古くから言われていますが、そもそもデータを一元管理する仕組みを構築する事は大きな困難を伴います。 さらに、仕組みができても在庫責任が販売・生産の各部門に分散していると、各部門の部分最適なオペレーションのためブルウィップ効果はなかなか克服できません。

次の壁は、「数量管理と財務管理の連携(S&OP)の壁」です。

SCMを事業管理に直接連携する金額で扱うためには、その前提として数量ベースの需給管理の精度が相当上がっている必要があります。 また、モノとカネを一体で扱うため、原価管理基盤がある程度出来上がっている必要があります。

しかし、これらは壁の表層・現象面でしかありません。

 真の壁は、経営トップと現場が目指すべきSCMの具体的な姿が描けず共有化できていない事です。

SCMの段階を進めていくためには膨大なエネルギーが必要です。 しかし、SCMイメージが共有できなければ、その動機付けを行う事ができず、全社プロジェクトとして立ちあげることができないのです。

5.連載を通じてお伝えしたいこと

前節では、SCMのステップ・アップを阻む壁を解説してきました。

結局、現場と経営トップが、自社の目指すべきSCMの姿を鮮明に描き共有化する事ができるか、がポイントである事を示しました。

永年のご支援の中で、SCM最先端の企業における、あるべきSCMの仕事の形とそれを実現するITの仕組みを実体験として蓄積してきました。

 当連載では、実体験に基づくS&OP完成に至る道のりと壁を乗り越える方法を、業務とITの両面で発信して参りたいと思います。

なお、現在SCMの最先端を走っている企業においても、決して課題がないわけではありません。

それは、あるべきSCM評価指標(KPI)、スコアカードに関する課題です。 この課題は、前節で述べた最終ステップ「機会損失防止と在庫削減の両立・最適化」を達成するために克服しなければならない課題です。

次号以降、当連載では、これらの課題にも触れていきます。

そして、S&OPの次に来るSCMのテーマを明らかにしたいと考えております。

乞う、ご期待!