1.S&OPとは?

今日の最先端SCMテーマといえば、一番に上げられるのはS&OPSales & Operations Planning)でしょう。

すでにS&OPの仕組みを構築され、実績を上げられている企業が出始めています。

しかし、現在の日本でこのS&OPが完成していると言える企業は、まだ極めて少数です。 当連載の最大の目的一つは、まさにS&OPを多くの企業で実現して頂くヒントを提供する事です。

S&OPは、「Sales and Operations Planning(販売・業務計画)」の略です。

日本語に訳すと「販売・業務計画」となりますが、「Operation」と日本語の「業務」のニュアンスにギャップがあるため、「S&OP」と直接、呼称されることが多いようです。

S&OPについては、様々な定義がなされていますが、まとめると、下図のような定義が一般的です。

日本でこれまで普通に行われていた「生販計画」に近いようですが、最近の用語の使われ方としては、本来の「需給バランス」の意味は希薄になっており、

 

数量主体の世界である「SCM」と金額主体の「事業計画」の間の整合性を確保するという意味で専ら使われることが多くなっています。

2.今なぜ、S&OPが求められているのか?

S&OP自体は、1988年にディック・リング氏とウオルト・ゴダード氏が提唱した概念で、決して新しいものではありません。

しかし、これまでS&OPはSCMのトレンドとはなっていませんでした。それがここ数年急に注目されるようになってきたのは、SCMの道具建てが整ってきたという背景に加えて、実際にSCMが経営の役に立っていないのではないか?という反省が急激に高まってきたからです。

納期遵守、在庫削減など企業のサプライチェーン・オペレーションには、SCMは無くてはならない仕組みとして定着しています。それにもかかわらず、事業計画達成の直接の役に立っていないという認識が高まってきたのは、サプライチェーン上の「数量」の管理がうまくいっても、それが「カネ」、つまり事業計画の達成には必ずしも繋がっていないという問題が直視され、顕在化したからです。

日々のオペレーションに携わっている販売・需給調整・生産・購買・物流などSCMの現場では、日々発生する計画と実績のギャップを埋めるために長時間を要しており、迅速なアクションがとれていないという問題意識があります。日常レベルのSCMオペレーションにもトップマネジメントを巻き込み意思決定のスピードアップを図りたいという強い思いがあります。

しかし、トップマネジメントの必要とする「カネ」の視点で日々のSCMのオペレーションが評価されていないために、トップマネジメントを日常業務オペレーションに直接巻き込むことができずに、意思決定の時間を短縮することができません。

一方、トップマネジメントも自分自身が直接SCMをコントロールしている感覚が薄く、部下への指示を通じての靴の上から痒いところを掻いているようなもどかしさを感じることも多いようです。

この様にS&OPの取り組みにおいてはトップと現場の利害は一致しており、その前提さえ満足されれば、遂行に際して全社意識改革は然必要になるとしても、比較的取り組みやすいテーマであると言えます。

S&OPは、SCMの評価・実行における単なる「数量」中心のオペレーションに「金額」の視点を加えようとする試みであり、企業の本来の目的である事業計画達成の確度を上げようとする必然的な流れといえます。

以上、なぜ今、S&OPが求められているのかが理解頂けたと思います。

3.S&OPで実現される業務

それでは、現在行われているS&OPではどのように「数量」と「カネ」の整合を図ろうとしているのでしょうか?

ちょっと、テクニカルな話になりますが、基本的な内容のみに絞って概要を説明したいと思いますので、お付き合いください。

以下に、標準的なS&OPの機能を示します。

A.年度予算の策定

S&OPは、年度予算策定における予算に対する数量ベースでSCMオペレーションの裏付けを取るプロセスから始まります。

A1は、売上げ・原価の発生タイミングとモノの動きを整合する機能です。つまり、物流と商流におけるモノとカネの動きを連携・並行して計画する機能です。

 

一般的には、モノの動きは必ずしも売上げや原価の発生と一致しません。

事業目標の管理を行おうとするとこの様なズレが現実に問題となってきます。目標が達成されるか、そうでないかの判断基準となるので、S&OPの実現においては重要な機能です。

しかし、商流と物流に大きな差がないと判断される場合には、この様な読み替えを行わずにS&OPを行っている場合もあります。

 

A2は、年度予算策定のプロセスにおいて予算(カネ)に対するSCMオペレーションの実現可能性を担保するためのシミュレーション機能です。

売上げ・原価の予算に対して、それが実際にサプライチェーンで実現可能が検証する機能です。

予算で想定されている製品が供給可能かSCMシステムを用いてシミュレーションする事になります。

サプライヤーや自社工場の能力あるいは海外から調達リードタイムなど供給可能性、つまり実際にモノが供給できるかSCMシステムを用いて検証します。シミュレーションの結果、供給のボトルネックが明らかになれば、そこに重点的に手を打つことで事業計画達成の確度は大幅に高まることになります。逆に予算に対する供給可能性が担保できないことが判明した場合、代替製品の検討、仕向けの配分の変更など、予算の微調整を繰り返しながら、その実現可能性を高めていきます。

予算に対する供給可能性が担保されなければ、それは単なる絵に描いた餅です。

通常、一般のの企業でも概要レベルの供給可能性の確認は行っているはずですが、詳細な確認を行っているわけではなく、実行してみてできないことが発覚する事も少なくありません。

 これらを実現するためには、予算(カネ)策定とSCMオペレーション検証を行うためのITシステムの連携が必須です。

 

上記2つの機能を駆使しながら徐々に予算の精度を高めていき、最終的に予算を確定します。

 

B.日常SCMオペレーション

次は、裏付けの取れた予算の実行によって発生する予実の差異への対応する機能です。

 B1では、日々のSCMオペレーションの実績を予算と「金額」で比較します。そこで発生する差異に対する対応方針をトップマネジメントと現場が共有の上、決定します。

 

B2では、対応方針に基づき対応策の具体的なSCMシミュレーションを行い、結果を再度共有し、対応アクションを最終的に決定します。

この様なトップマネジメントを巻き込んだ日常のSCMオペレーションが行えるようになるので、サプライチェーン環境の変化への対応が格段に速くなります。

C.年度予算の見直し

 

Cでは、日常の対応ではカバーしきれない需要変動や供給環境の変化への経営レベルの対応を実施する事になります。

 

Bとは意思決定のレベルの違いがありますが、使用する道具は基本的に同じです。

意思決定の結果が事業目標の再設定となる場合は、Aのプロセスを再実行することになります。

以上が、現在一般的に行われているS&OPの業務機能の概要です。

4.事業目標管理におけるS&OPの対象領域

これまで、S&OPの機能概要を述べてきました。しかし、その実現においては色々な利益管理のバリエーションが考えられます。下図にS&OPで想定される利益管理の対象領域を示します。

管理する利益の種類の視点

最初の視点、管理する利益の種類は、下図の縦軸、粗利、営業利益、限界利益などです。

もう一つの視点は、取り扱う製品構成の深さです。

A領域: 粗利・製品レベル    

現在、最も一般的に実施されている利益管理の対象領域です。

利益管理レベルが粗利レベル、製品構成レベルが製品レベルで利益の管理を行おうとするものです。

S&OP実践における入り口となる領域ですが、主要製品の売上げと売上原価、つまり粗利が把握できれば、S&OPの主要な目的は達成できるとも言えます。

また、当領域の売上げと売上原価は比較的容易に把握する事が可能であり、最も実現可能性の高い領域であると考えられます。S&OPの目的達成にとって、言わば最もコストパフォーマンスの良い領域であり、S&OPに取り組む企業が最初に目指すべき領域です。

B領域: 営業利益・製品レベル

A領域の粗利からさらに販売管理費を差し引いた営業利益が管理する利益です。

SCMでの管理対象である輸送費なども直接の管理対象となり、より詳細な利益の把握が可能になりますが、SCMで管理するモノに直課できない販売管理費の配賦の問題など、従来からある原価管理の課題に直面することになります。これらの費用の多くがSCMの直接のコントロール外であるため除外し、敢えてA領域での利益把握にとどめる事も行われます。

C領域: 変動費・製品~部品レベル

原価をSCMで直接コントロールするモノ全体を変動費として取り扱う方法です。

SCMで管理する原価をさらに詳細に管理しようとするものですが、当該部品構成の全レベルで数量と金額をセットで取り扱う必要があるため、難易度はA、B領域に比べ格段に高くなります。

現在、筆者の知りうる限りこのレベルでのS&OPを実現している企業はありません。

B/S(棚卸資産)の管理

事業計画を達成するという目的のためには、在庫を含めた棚卸資産の管理は欠くべからざる領域である事には違いありません。しかし、当領域はどちらかと言うと比較的焦点が当たっていない領域です。

一般的な棚卸資産におけるS&OPの業務機能としては、評価金額が事前に設定された事業目標以下になるよう営業利益の最大化を目指しながらいい塩梅のバランスを見い出す事です。

第一回のコラムで述べたように、現在SCMの最適化を図る場合、営業利益と在庫のトレードオフを解決する適切な方法は提案されていません。したがって、最先端のS&OPといえども、両者のバランスは、手探りで試行錯誤を繰り返しながら実施しているというのが現実です。

 

5.S&OPを実現するための肝は?

以上、S&OPとは何か?それはどのように実現されているかを概観してきました。

最後に、S&OPで実効を上げるためには、何が重要であるかに触れておきたいと思います。

第2節 「今なぜ、S&OPが求められているのか?」 で述べたように、S&OPを実現することに対して、現場とトップマネジメントの利害は一致しています。また、S&OP自体の実現については、SCM関連部門間の利害の対立は基本的にはありません。したがって、S&OP自体の取り組みを進めることについては、全社のベクトルは比較的合わせやすいという事ができます。その意味では、S&OPの取り組みはどちらかと言うとテクニカルな課題への取り組みが中心となっており比較的その取り組みはスムーズに進むようです。

 しかし、すでにS&OPを実現している企業でも現在問題となっているのは、S&OPの精度です。

S&OPの精度に問題があれば、結局、事業目標の管理を担うという重要な機能を果たす事ができない訳であり、構築の結果、当初の想定した精度が出せなければ、業務改革、システム再構築の失敗であり、本番稼働させてもいずれ使われない仕組みとなってしまう可能性が大です。

逆に、S&OPでうまく効果を出している企業では、この数量ベースの精度を十分上げることに十分時間と労力をかけた後にS&OPの取り組みに着手し、S&OP自体の構築は比較的スムーズに進められているようです。

このS&OPの精度が出ない理由は、「数量」ベースのSCMの精度に原因があることが大半であり

結局、この課題に戻ってくるようです。

 

 

 その意味で、第一回で解説した次図、「SCMのステップアップを妨げる壁」を一歩一歩着実に乗り越えることが、S&OP実現の肝であると言う事が言えます。

やはり、長城は一日にしてならずの諺の通り、あらゆる努力を自社のSCMの数量管理の精度向上に向ける事こそが、まずはS&OPの成功要因ということになります。

 

次回は、上記で触れたS&OPの実現の前提である「SCMオペレーション精度の向上」について、もう少し触れてみたいと思います。

乞うご期待!